寄り道は柿の種と一緒に

 帰り道で無性に柿の種が食べたくなってスーパーに立ち寄ったのだけれど、ちょうど売り切れてしまったのかピーナッツなしの柿の種しか置いてない。

「あのう、柿の種はここにあるだけですか」

 暇そうにカルトンにバーコードリーダーをかざしているレジの女性店員さんにそう訊くと彼女はにっこり笑った。

「今ちょうど切らしちゃってるんですよ。ピーナッツなしのやつなら減塩のもありますけど」

「あ、そうですか……」ぼくは内心でがっかりしながらも女性店員さんの前ではそんな様子はおくびにも出さないよう気丈に振る舞った。しかし溢れ出る残念な気持ちは堰き止めきれていなかったようで、店員さんは慌てたように、

「ピーナッツ入りのは置いてないですけれどピーナッツ単品ならありますよ」

「つまり、ピーナッツなし柿の種にピーナッツを入れてピーナッツ入り柿の種を作る、ということですか?」と驚くぼく。店員さんはいたずらっぽく微笑んだままうなずく。

「もちろんです。ただし、食べ過ぎにはご注意ください」

「気を付けます……。気を付けようがあるのか解らないけど」


 そうなると次の問題は配分比率だ。ぼくはパッケージの内容量を見ながら計算を試みる。あれ、そういえば一般的な柿の種の配分比率はいくつくらいなんだろう。

「以前は柿の種とピーナッツが6対4、というのが主流でしたが、最近はシュリンクフレーションの影響で7対3になりましたね」

 店員さんはよっぽど暇なのか、ぼくの肩越しにパッケージを覗き込みながらそんなことを言う。

「ちがいます。アンケートの結果、各年代、性別ともに柿の種7、対ピーナッツ3の比率が一位だったんです。失礼なこと言ったら怒られますよ」

 ぼくはスマホで「柿の種 ピーナッツ 配合比率」で検索した結果を彼女に伝え注意する。

「またまた、そんなの小学生でもわかりますって。内容量だって10gずつ減り続けてるじゃないですか、これがステルス値上げじゃなくて何なんですか?」と店員さん。

 そう言われるとそんな気もしてくる。しかも調べたところ個数比ではなく重量比らしいので6:4から7:3への変更は、その数値が与える印象以上に袋の容積に占める柿の種の割合を増やしたことだろう。ぼくはもっとピーナッツが多い方が好みだ。


「まあ、買う人の好みにまかせますという意味でも、別々に買うのをおすすめしておきますけど」と店員さんは話を締めくくる。ぼくもそれには異論なかったので、柿の種とピーナッツがそれぞれ個別包装された袋を持ってレジに向かう。

「あ、お箸はどうしよう」

「二膳ください」

 お会計を済ませてスーパーを出る。小袋をぷらぷらと振りながら家路につく。寄り道しながらしばらく歩いていると、ごめん待った? と言いながら先ほどスーパーでレジをしてくれた彼女が仕事を終えて追いついてきた。

「いいや、風が気持ちいいし寄り道しながらぶらぶら散歩してた」

「よかった」と彼女は言ってぼくの横に並んで歩きはじめる。


「そういえばさっき買った柿の種どうするの? 私は7:3もぜんぜんありだと思ってるんだけど」

「それぞれ好きな比率で混ぜて食べればいいよ。せっかく個別に買ったんだし」

「こういうのは一緒がいいなあ」

 彼女はそう言ってぼくの手の中の小袋を指さす。ぼくは思わず笑みをこぼした。

「いいよ、じゃあぼくが7で君が3ね」

「ううん、あなたが3で私が7」

 彼女は微笑みながら言った。

いろはうたう

素敵なものが欲しいけどあんまり売ってないから小説を書いてます

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