今日という日を

世界はひそやかに変わり始める。私はその変化を髭の先で感じる。

多くの夏と秋を経験してきたが、今年は特別な気がした。

何かが変わる予感がする。私はこの変化を見届けたい。

そう思いながら、新しい季節の訪れを待つ。


私の住む町には、まだ夏の暑さが残る。人々は涼を求めて川辺に集まり、子どもたちは水しぶきを上げながら笑い声を響かせる。

その日、私は一人で木陰に座り空を眺めていた。川のせせらぎが心地よく、この場所はお気に入りである。空はゆっくりと流れ、雲が形を変えていく。空の青さが深くなり、風が少し冷たくなってきた。


麦わら帽子をかぶった女性が、じっと水面を見つめていた。彼女の名前は知らないが、よくこの川辺で見かける人間だった。

「こんにちは」と彼女は言った。

私は挨拶を返す。

「今日はとても暑いねえ」と彼女は言った。

私も同意する。


沈黙が私たちの間に流れた。風が木の葉を揺らす。木々のあいだを縫うようにして、太陽の光が私たちに降り注ぐ。地面にはゆらゆらと揺れる木漏れ日が生まれていた。まるでダンスを踊っているように、光の筋が足元にできている。

「もう秋がやってくるんだね」と彼女は言った。

私はうなずいた。彼女と会話をしていると、その時間は特別なものに変わる。彼女がこちらに投げかける言葉のひとつひとつが、私の胸の中に染み込んでいく。まるで魔法のように心が軽くなる。


彼女は立ち上がり、川の流れに沿ってゆっくりと歩き始めた。私は彼女の後ろ姿を目で追う。

「ねえ」と彼女は言った。「この川にはどんな魚がいるのかしら」

私は立ち上がり、彼女についていった。そして川辺に座り込み、二人で水面を眺める。

水の中にはさまざまな形をした生き物たちが泳いでいた。大きな鯉や亀が私たちに近づいてくることもあった。私たちはその魚たちに思いを馳せ、想像する。彼らはどんな世界に住んでいるのだろうか。そして、この川も彼らにはどんな風に映っているのだろう。


「君はあんまりお魚には興味がなさそうだねえ」と彼女は笑う。

水面に映る空と雲の影がゆっくりと流れていく。その風景はまるで絵画のようだ。私たちは時間を忘れ、その光景に見とれていた。

彼女は立ち上がり、「また来るね」と言って去っていった。

私は彼女の後ろ姿を見送りながら、秋の始まりを感じていた。


日が沈むと、虫たちの歌声が変わる。夜の散歩を楽しみ、木々の間を縫うように歩き、落ち葉を踏む音を聞きながら、季節の移ろいを感じる。日々、町の景色は変わっていく。人々の服装も、食べ物も、話題も変わる。私はそれらを静かに見守りながら、自分の中の変化にも気づく。心が落ち着き、感覚が研ぎ澄まされていく。私は高い場所から秋の装いに変わりつつある町を見下ろす。色とりどりの木々、穏やかな日差し、そして人々の温かな笑顔。すべてが美しく、ただただ感謝と愛情でいっぱいだ。


私は「にゃーん」とその場を後にした。

いろはうたう

素敵なものが欲しいけどあんまり売ってないから小説を書いてます

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