空も知らず海も知らず
雲が空を流れて行くから
過ぎ去る時の非連続性に涙することもできるのだ、と蛙は思った。
清涼飲料水の空缶を自室で徒に積み上げていたときのことだ。
誰かを愛すること、何かを愛でること、
そんな一過性の祈りを捧げる対象が
常に心の中にあるわけでもない。
激しい感情の昂ぶりが、
もしも海のように干上がることのないものならば
もしも太陽のように燃え尽きることのないものならば
つまりそう信じさせられるだけの力強さを秘めていたならば
けれどもその器たる幼心は
傷つくことを免れえないだろう、と蛙は思った。
蛙は夜という概念としての時間の持つ意味の意義を疑った。
蛙は別れという終局へ至る必然的帰結の必然性を顧みた。
蛙の耳は地球の裏側で鳴る目覚まし時計の音を求め
そして目の前には崩れた空缶の塔がある。
ここ数日、月には日毎誰かがインクをこぼしている。
にもかかわらず当の月はといえば目映いばかりの微笑みで
蛙は月の安定した情緒や正常な思考力や
公正な判断力を疑わずにはいられない。
月が暗幕の夜空に吊るされた
黄色い画用紙であればいいのに、と蛙は思った。
この暗い室内を照らすガラス越しの月が
路傍の街灯であればいいのに。
それが幸運なのか不幸なのか、蛙の溜息は夜には溶けない。
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