螺旋の縺れへ
驢馬は鼻先で揺れる人参を眺め思う。
何事かを求めて止まぬ心には深い暗闇が存在する。
程度の多少は意味をなさず、希求する対象もまた問題ではない。
その闇から逃れたい一心でここまで走り続けてきた。
しかしこの所、その闇が前より大きくなっている気がする。
飼い葉は順調に減っていくのに、体の中に積った闇は重く深くなる一方だ。
今や好物を鼻先にぶら下げられているというのに、欲しいとも思えない。
この飢えと渇きを満たすには、もっと別の何かが必要なのだ。
いつからか陽光の下、眼前で揺れる人参は質量を失ったようだ。
幸福と名づけられたその人参はいまや光そのものである。
欲する自分を装う不毛な行為であると承知している。
だが恐怖が驢馬の足を動かし続ける。
抗い難く確信に近い予感がある。
その未来は驢馬にとって予言ではなく歴史である。
光を追い求めることに疲れた魂はやがて瞳を閉じるだろう。
そして自らの身を闇へ委ね、概念の隘路に迷うのだ。
玻璃色の暗闇に銀色の雫が軌跡を描き
朽ちた木々の如き言葉たちが驢馬の足を串刺す。
遠目には驢馬は闇と戯れ踊っているよう見えるかもしれない。
孤独な影が安らぎを求め岐路に立つその傍らで。
0コメント