腐海の糸

友人へと宛てた手紙を書きながら狸は眉をしかめた。

先日買ったばかりの万年筆の具合がよくない。

手紙一通書ききれぬほどではないが。


この手紙を書き終えたら郵便局と文房具店に行こう。

あるいはそのときには修理の必要などないだろうか。

いずれにせよ言葉を並べてみぬうちには始まらない。


狸は白い便箋に意識を向ける。

自らを消すように息を潜める。

そして内なる声に耳をすます。


心の奥で凝る輪郭の曖昧な対象。

最初に繋がる景色は平日の公園。

その奥深くへと続く緑陰の小径。


確かな予感がある。

その林は森へと至り

友人はそこで歌っている。


進み、渡り、重ね、流れ、そして思う。

我々はいかに楽園を定義しうるのか。

辿りつくべき場所があると思い込み深奥へと潜る。


溢れる想いが伝わること。

誰もがささやかな願いを叶えられること。

言葉を介さず感情をあるがままに感じられること。


友人に訊けば何と答えるだろうか。

そう思いながら狸は森の奥へと沈んでいく。

怖くはない。

ただあたたかだ。

いろはうたう

素敵なものが欲しいけどあんまり売ってないから小説を書いてます

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