光の射す方へ

 彼は微かな光を感知すると、避けるように暗闇の奥深くへと潜っていった。いつからそうしているのかは判らない。もしかすると、世界に海と岩とわずかな砂地しかなかった頃からずっと、彼らの一族はそうして命を繋いできたのかもしれない。土の中で微睡んでいると、しとしととした雨音が聞こえて目が覚めた。今日は雨の匂いがする。空気は湿り気を帯び、土の香りが濃厚になっている。今年ももうそんな時期か。彼はあくびを一つした。


 そのあくびが終わると同時に、彼は自分の周りの世界が変わり始めていることに気づいた。雨の匂いはいつもと違い、土の質感も何かがおかしい。彼はゆっくりと体を起こし、周囲を探り始めた。すると、彼の住む土の中に、小さな光る石が埋まっているのを見つけた。それは彼がこれまでに見たことのない、不思議な輝きを放っていた。石は、まるで夜空の星のように、暗闇を仄かに照らす光だった。


 彼はその石を前にして、何時間もただじっと見つめていた。石からは温かみのある光が放たれ、彼の心を穏やかにしてくれた。そして、その光は彼に話しかけてくるような気がした。言葉ではない、もっと深い、心の奥底に響くような声だった。

「外の世界を見たいか?」その声は問いかけた。


 彼は迷った。彼の一族は代々、外の世界を恐れ、暗闇の中で生きてきた。しかし、彼はいつも何かに引かれるように外の世界に興味を持っていた。そして、今、その答えを見つけるチャンスが目の前にある。

「はい、見たいです」彼は心の中で答えた。


 すると、光る石はさらに強く輝き始め、彼の周りの土がゆっくりと動き始めた。彼は恐怖と興奮の入り混じった感情を抱きながら、光に導かれるままに動き出した。土は彼を外の世界へと運んでいくように流れ、やがて彼は地上に流れ出た。


 目の前に広がるのは、彼が想像していた以上に美しい世界だった。空は高く、雲は白く、そして何よりも、彼が今まで知覚したことのない色とりどりの花々が咲いていた。彼はその美しさに圧倒され、しばらくはただ呆然と立ち尽くしていた。


 しかし、彼はこの美しい世界には、自分の居場所はないということにもまた気付いた。

 彼は自分の居場所を見つけるために、この世界を旅してみることにした。

 それはきっと楽しいことだから。

いろはうたう

素敵なものが欲しいけどあんまり売ってないから小説を書いてます

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