よき月に、風やわらぎて

 初夏は存外、落ち葉が多い。常緑樹は新しい葉が整うにつれて、古い葉を切り離していくからだ。木々が青々とした若葉に覆われ、光の中で風とさざめくその足元で、老いた葉が散らばっている。


 彼はその落ち葉の一枚に、小さな文字が書かれているのを見つけた。文字は古いもので、解読することはできない。しかし、その文字が何かを伝えようとしていることは、彼には明らかだった。彼はその落ち葉を拾い上げ、ポケットにしまった。


 帰宅すると、彼はその落ち葉を机の上に広げてみた。すると不思議なことに、文字が少しずつ形を変え始めた。それはまるで、何かを語りかけてくるようだった。彼はその変化する文字から目が離せなくなった。


 時間が経つにつれて、文字は一つの言葉になり、その言葉は一つの文になり、やがて一つの物語を織り成していった。それは古い伝説についての物語で、遠い昔、人々が自然と共生していた時代のことを語っていた。


 物語には、自然の精霊たちが登場し、彼らは人々と対話し、時には助け、時には試練を与えていた。そして、その中には「落ち葉の精霊」という存在がいた。彼女は、落ち葉を通じて人々に知恵や警告を与える役割を持っていた。


 彼はその物語に魅了され、毎日落ち葉を拾い、その精霊のメッセージを読み解こうとした。そしてある日、「落ち葉の精霊」が彼の前に現れた。彼女は美しい女性の姿をしており、優しく微笑みながら彼に話しかけた。


「あなたは私のメッセージを読むことができた最初の人間です。私はあなたに感謝します。そして、あなたに一つの贈り物をしようと思います」


 精霊がそう言って手を振ると、落ち葉が舞い上がり、光り輝く粒子に変わった。その粒子は彼の体の中に入り込み、すると突然、彼の耳には自然の声が聞こえるようになった。


 それ以来、彼は世界と対話することができるようになり、多くの知恵を得ることができた。彼はその知恵を使って、人々と自然の関係を改善するために尽力している。

 自他の境界の狭間で、そんな夢を見続けている。

いろはうたう

素敵なものが欲しいけどあんまり売ってないから小説を書いてます

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