ガイア逗留記

 世はまさに大航海時代。人々は世界のあちこちに足をのばしては古代遺跡を発掘していった。それらの遺跡には、かつて人類が持っていた、醜さやエゴイズム、優しさや尊さといった複雑な感情の残滓が眠っていた。

 その遺跡のひとつに逗留していたぼくは、強い揺れを感じて目を覚ました。寝床から這い出て海岸に向かうと、港の沖合い二十キロメートルぐらいのところが黄金色に眩く輝いている。


 やがて金色の輝きの中から巨大な鳥みたいなものが浮かび上がってきたかと思うと、少しずつ空へ浮かび上がっていった。

「なんだろう」とぼくはひとりごちた。なにかのモニュメントみたいなものだろうかとも考えたが、それにしてはかなりサイズが大きいような気がする。

 鳥のような怪獣はまばゆいばかりの光と共にどんどん空に向かって登っていく。「おおー」とぼくは思わず声を漏らした。怪獣が羽ばたくたびに、その体から金粉のようなものがぱらぱらと空に舞っていた。

 鳥のような怪獣が雲の向こうへ見えなくなると、さっきまでの騒ぎはなんだったんだろうというくらいあたりは静かになる。ただ波の音だけが寄せては引いていくばかりだ。ぼくはしばらく呆然としてその場に立ち尽くしていたが、ふと我に返り寝床に戻り再び横になった。


 それからしばらくは普段通りの毎日が続いた。ときどき強い揺れを感じることがあって、何事かと思って海岸まで様子を見に行くとあの鳥のような怪獣が空を飛んでいることがある。そうやってしばらく眺めているとやがて飛び去ってしまうのだった。

 そのうちぼくは気づいたのだが、怪獣はどうも逗留している場所を変えているらしかった。その怪獣がどこから来てどこへ行くのか、なぜあんなふうにいつも空に向かっていくのかは、ぼくにはまったく解らないことだったけれども、しかしそれはなにか宇宙の摂理のようなもののように感じられた。それはもしかすると、ぼくらが解ったつもりになっていて、じつはぜんぜん解っていないこと、そのものなのかもしれなかった。


 ぼくはその怪獣のことを、親しみを込めてガイアさんと呼ぶことにした。他の呼び方を考えようという気も起きなかったし、それになんとなくその名前が似合っているように感じられたからだ。

 ぼくが呼ぶとガイアさんはいつも応えてくれるような気がした。あるいはただの気のせいであったのかもしれないけれども。でもぼくはそうやって毎日ガイアさんに挨拶をしていた。「おはようガイアさん、いってらっしゃい」と声を掛けることもあったし、「おかえりガイアさん、おやすみ」と言うこともあった。


 それからぼくは相変わらず遺跡の発掘作業をしながら、ガイアさんを観測しているのだけれど、たまに出現位置や風向きの具合なんかで、飛び立つときに身体から落ちる金粉のようなものを採取できる日もあった。

 あまりにも綺麗なので、ぼくはそれを小瓶に取っておいてときどき眺めている。瓶越しに見るとその金粉はきらきらと七色に光っていて、それはやはりなにか宇宙のはしっこに繋がっているように感じられるのだった。

いろはうたう

素敵なものが欲しいけどあんまり売ってないから小説を書いてます

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