けものたちの祝宴
ソファに深く身を沈め
ベト7を聴きながら戯れに動かす両腕の
そのあまりの軽さに川獺は虚無の気配を嗅ぎとるのだ。
それは夕立後のアスファルトの匂いにも似て、
川獺にとっては負の感情よりも懐かしさが先にたつ。
夕暮れの街に一人とり残されたような心地よい種類の孤独だ。
川獺はときどき時間に追い越されたように感じることがある。
何もかもが心地よい速度で振り返りもせず駆け抜けていく。
彼らは手に手をとり楽しげに踊りながら通り過ぎていく。
それが後ろを顧ることはない。
零れ落ちていくものにも頓着しない。
これまで彼らの通り過ぎた跡で何匹か猫を拾った。
残念ながら自分は猫に好かれる質ではない。
川獺は自らをそう認識している。
だが猫は一方的に好きだ。
基本的には無口な猫が、たまに出す細い声が好きだ。
自分は久しく声をあげて泣いていない。
第三楽章の途中でふと思った。
考えてみればおかしなものだ。
生まれた日には泣き声をあげたはずなのに。
今、自分はどうやって声を出して泣けばいいのかわからない。
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